群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

一人称単数

 村上春樹の「一人称単数」を読んだ。作品の舞台に阪急電車や、芦屋と思しき土地が登場し、登場人物を作家自身に重ねて読みたくなる。特に「ウィズ・ザ・ビートルズ」という短編には、自殺する女の子が出てくるんだけど、これなんてノルウェイの森の元になった実話なんじゃないかと思えてくる(でもおそらく、これは創作なんだろう)。「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」や「ヤクルト・スワローズ詩集」は、作家の個人的な体験や偏愛を語ったエッセイのようである。創作にしろエッセイにしろ、作家自身が年を重ね(もう71歳なのだ)、それを受け入れた上で、ノスタルジーに陥ることなく、過去の体験をうまく作品化しているように感じた。最近の村上の小説は同じような話の繰り返しで新味を感じなかったのだが、久しぶりにこの短編集を面白く読んだ。

一人称単数

一人称単数