群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

DさんとKさん

 私がずぶずぶと翻訳の泥沼に足を踏み入れることになったのは、11年前、芦屋でDさんがやっておられた翻訳教室に通ったのがきっかけである。だが、そもそもなぜDさんの翻訳教室を知ったのかというと、私は元々知っていたKさんという方のブログを読んでおり、そこに翻訳教室を紹介するDさんのホームページがリンクされていたのだ。どうやらDさんとKさんは、過去に同じ会社に勤めていたと察せられる。私は大学を卒業したころ、Kさんと書店のアルバイトでご一緒させていただいた。何度か酒の席をご一緒させていただいたことがある。その頃Kさんは会社を退職し、半分ライター、半分書店員として活動しておられたようだ。どこか飄々として、面白い方だった。出版されたというご自身の本を書店の棚で紹介してもらったことがあるのだが、「まあ、売れる本じゃない」と自虐的に笑っておられた。だが、しょうもない笑いをとりに来るようでいて、「テグジュペリは星の王子さま以外がいい」とおっしゃられるなど、一本筋が通っていた。
 その書店をやめて数年後のある日、阪急電車にのっていたら、たまたま隣の乗客が「Number」というスポーツ雑誌を読んでいた。好きな雑誌なので、その隣の乗客のNumberを横目で見ていたら、そこにはKさんがNumberのノンフィクション新人賞を受賞したという知らせが掲載されていた。あれには本当にびっくりしましたね。Kさんの受賞もさることながら、まさかその受賞の知らせを、阪急電車で隣り合わせた乗客が読んでいた雑誌から知るとは思わなかった。その後ネットで調べて、Kさんのブログを知ることになったので、考えてみると、電車であの記事を読まなければ私は翻訳を志すことにはならなかった。人生、しみじみ不思議である。マラソンにチャレンジして完走したら、ライターになるのを決意しようと思った、という内容の話をKさんから聞いたことがある。会社が終わってからコツコツと走っておられたらしい。当時、その話に私は深く感じ入った。世の中には、こういうふうにものごとを考えられる人がいるのか、と思った。30代になってマラソンを完走したのは、Kさんのその話が頭に残っていた部分もあったかもしれない。もう連絡をとってはいないが、お二方とも書く道で活躍しておられて、さすがやなあと感じ入る。何といっても難しいのは、続けることだと実感するからだ。私が翻訳で日の目を見ることになるのかどうかは正直自分にも分からないが、たとえ日の目を見ることがなくても、読むこと、書くことは続けたい。  

On Writing: A Memoir of the Craft (English Edition)

On Writing: A Memoir of the Craft (English Edition)