群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

むずかしい天皇制

 天皇制についてもっと知りたかったので、「むずかしい天皇制」という本を読んでいる。天皇制なんてもう廃止したほうがいいんじゃないか、と考えていたのだけど、この本を読むと、問題はそう簡単ではないことが分かる。以下何点かメモ。

・もし天皇制を廃止しても、天皇家がこの世からなくなるわけではない。民間の天皇家になる。この民間の天皇家には表現の自由が認められるから、日本政治の撹乱要因になる可能性がある。そんなことになるくらいなら天皇制で囲っておいたほうがよい。
天皇制では道徳的な高潔性が担保されている。政治が失敗した場合、日本人の精神的な安定にとって天皇制が非常に重要な役割を果たすことになる。一例が敗戦問題。太平洋戦争で負けたことで、日本人は他国の死者、自国の死者とどう向き合っていいのか分からなくなってしまった。だが平成の天皇が非常に熱心に慰霊を行なったことで、日本人が追悼等の行為を免除された一面がある。
・現在、多くの国の内部で「デモクラシー以前の合意」が成り立たなくなっているが、日本がそうならずにすんでいるのは天皇制が存在し、それを承認しているから。天皇制があることで日本人の間に最小限の合意が形成され、かろうじてデモクラシーが崩壊するには至っていない。 

かなりの日本人が天皇制はあったほうがいいと思っている。でもその持続可能性については、せいぜい女性の天皇を認めるかどうかくらいのことしか考えていない。しかし、たとえ女性の天皇が容認されたとしても、後続に子どもが生まれない場合だって十分にありうるわけです。女性の天皇を認めたくらいでは、皇室が安泰とは言い難い。もし天皇制の、少なくとも「万世一系」のフィクションを維持したいのであれば、この制度が持続可能であるように抜本的な考え直しが必要になります。

今の制度群は、人間としての天皇を大事にする前提で作られていない。

 いずれにせよ、天皇制というものをバカにしてはいけない。吉本隆明は『転向論』の中で、戦前のマルクス主義者は、天皇に熱狂する大衆を小バカにしていたら、結局「日本的小情況に足をすくわれた」のだというようなことを書いています。(中略)天皇制を本気に相手にし、それが成り立ち機能しているからくりを徹底的に解明しておく必要を感じます。