群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

レイモンド・カーヴァー「でぶ」を訳す

 今、レイモンド・カーヴァーの"Fat"(邦題「でぶ」)という小説を訳しています。自分の訳を村上春樹訳と照らしあわせるのですが、ここは文法的にきっちり訳してあるなとか、ここまでやってしまっていいのかしらんとか、文章にリズムがあるなとか、この原文からこういう日本語になりえるんだとか、驚きと感心の連続です。
 ところで、初めにリーディングで原文をざっと読んだのですが、そのときにちょっとわからない文章があって、そのままにしておいたら、あとになって訳すときに、その文章はこの小説にとってとても重要なんじゃないかと気づきました。こういう文章です。

"I know now I was after something. But I don’t know what."
「今なら何かを探していたんだとわかる。でもそれが何かはわからない」

 この文章は、最後の、

"My life is going to change. I feel it."

につながってくるんだと思います。
 この小説は、変な話し方をするでぶっちょが、主人公のウェイトレスが勤めている店に来て、手間のかかる注文をして、たらふく平らげるというお話で、そういうことは屋台骨として確かにあるんでしょうけれど、決してそれだけではなかったのです。主人公は友だちにそのでぶっちょの話をしているところで、何か過渡期のようなもののなかにいた、あるいは、いるのかもしれません。この文章を最初にちゃんと読めていたかいなかったかで、小説の理解度も変わったはずです。明日もう一度原文を読みなおそうと思います。