群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

鈴虫、鳴かなくなる

 飼っていた鈴虫が、つい数日前には"リィ――リィ――"と、それは涼しげで透きとおった鳴き声を聴かせてくれていたのに、昨日あたりから"ジィ……、ジィ……"と、なんだかかすれるような音になってきて、死ぬんじゃないかと思ってよく見てみたら、羽根がボロボロになっていました。調べてみると、鈴虫は二枚の前羽をこすり合わせて鳴き声を立てているため、羽根がボロボロになると鳴けなくなってしまうみたいです。あの美しい鳴き声は、小さな鈴虫が削れるほど羽根を懸命に震わせて出していたと思うと、お疲れさまと声をかけてあげたくなります。餌を変えたら食べていたので、もう少し生きてくれそうです。鈴虫は成虫になって数か月で死んでしまうみたいですが、卵を産んでいたら、翌年また幼虫がかえって、美しい音色を聴かせてくれるかもしれません。
 昔、学生のころの知り合いが、"死んだら何かに生まれ変わり、それは世界のどこかにいる具体的な人間であって、虫ではない"というようなことを言ったので、"死後の世界なんて存在しないし、人間より虫のほうが数が多いんだから、微生物とかに生まれ変わるほうがずっと可能性が高い"という趣旨の反論をしたら、それっきり関係がとだえてしまったことがあります。その程度の関係だったのだと思います。
 僕は思うのですが、仮に死後の世界が存在するにせよ、生まれ変わってまた違う人生が歩めるなんて考えていたら、今生きているこのひとときを大切にできない気がするのです。
 鈴虫やクワガタを飼っていると、生きているという点において、人間も虫もなんらかわりはないと感じます。虫は、親も子どももほとんど見分けがつかなくて、子どもに親のかげをみたり、そういう感情移入はしにくいのですが、僕が思うのは、人間も虫も宇宙も、すべては全体の一部であり、そっと息をひそめるように活動を抑えたり、過剰に生命力をみなぎらせたり、生き死にを繰り返しながら巡りめぐって、流転のなかに収れんされていくということです。


【癒し系】自然音 すずむし "Bell-ringing crickets sound"