群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

目の当たりにした凄み

 まだまだプロ野球パ・リーグで熾烈な首位争いがくりひろげられているなかこんなことを言うのもなんだけど、今年もよく野球を観た。春先から選抜を観に甲子園に通い、贔屓にしているライオンズの試合は5試合観戦して5試合とも勝ったし、高校野球の地区予選を観に尼崎にも通った。でも、なんといっても今年もっとも素晴らしかった野球体験は、甲子園で見た桐光学園の松井投手だ。
 僕はあまり知識はないから、目の前のグラウンドで起こっていることを、自分の目で理解することしかできない。そんな僕にも、松井投手の圧倒的な奪三振力は、まっすぐに、力強く伝わってきた。
 まず、初回から三人を三振にとった。「やるじゃないか」はじめはそんなところだった。でも、松井投手は二回の先頭バッターも三振に取った。次のバッターも三振。松井投手を見る目が変わった。
 その日はよく晴れた夏の日だった。輝かしい陽光は短パンと半袖から出た僕の腕と足をチリチリと焼いた。時間がたつにつれ、皮膚は赤みをおびてきて、僕はかゆみを我慢しつつ、黒みを増す二の腕をちょっと誇らしく思いつつ、目の前の奪三振ショーに酔った。
 僕が理解できたのは、二種類の球種だった。ストレートと、おそらくはスライダー。どちらでも三振がとれた。スライダーは、外野からでもはっきりと曲がりが理解できた。バッターのスイングが、変化球の鋭さそのものがのりうつったようにうねる。見逃しも多い。中盤からは一個三振を取るたびにスタンドがどよめいた。
 スコアブックをつけていたわけじゃないから、何個三振をとったか最終的にはわからなかった。17個か、18個か。でも、目の前で起こったピッチャーの凄みは、十分に伝わった。
 名状しがたい余韻に浸って、家に帰った。ネットを見たら、松井投手は22個の三振を取っていた。大会新記録ということだった。