群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

戦慄のアルパカ

 アルパカ。とみに人気が出ているように見える。テレビを見ていたら、寡黙な芸能人が我をわすれて、アルパカに対する思いを熱く語っていた。モコモコした毛をまとっていて、だきつぶしたくなるほど愛くるしい目をしていて、気性はおだやか、反抗といえばつばを吐くことぐらいしかできず、それすらも愛着の対象となる。そのようなアルパカ像が浮かぶのではないだろうか。
 となりまちにあるI市動物園には、アルパカが二頭いる。動物園では餌を100円で売っていて、それを自由に与えることができる。もちろん、アルパカにやることもできる。
 餌を買って、アルパカのおりの前に足をはこぶ。僕は手のひらのうえに四、五粒えさを出し、アルパカの前に出してやる。アルパカはもしゃもしゃとそれを食べる。手のひらがなまあたたかく、くすぐったい。生きものの感触だ。
 すべてのえさを食べ終えたアルパカに、僕はにこりと笑いかけた。アルパカはこちらに身を乗り出してきた。そのときだった。僕は全身をつらぬかれるような恐怖を覚えた。アルパカはまるでシ●ブ中のような、爛々とした光を目にたたえていたのだ。
 彼はひょっとすると、えさのおかわりをおねだりしていたのかもしれない。だが、その目はおねだりという類のものではなかった。ひょっとすると僕はつばを吐かれようとしていたのか、いや、油断していたら殺られていたかもしれない、そう思わされるような狂気をはらんだ目をしていた。
 僕は大きく息を吸い、吐き、気をしずめてから、手のひらに残りのえさを出し、アルパカの前に出した。もしゃもしゃと食べる。やっぱりおかわりがほしかっただけなのか……。
 というわけで、I市動物園のアルパカに、若干の恐怖はあるんだけれど愛着もあるから、僕はたまに時間をみつけて餌をあげにいく。よその動物園でもっとかわいいアルパカを見てみたくないこともないんだけど、そうするとI市動物園のアルパカへの愛着がどうなるのか、いささか気がかりではある(でもひょっとすると、より強い愛着をおぼえるかもしれない)。