群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

二十歳の夏の夜のプール

 もう時効だから書いてもいいと思う。
 大学生のころ、地元の中学のプールで泳いでいたことがある。夜中にひっそりと誰もいないプールに忍び込んで、密かな泳ぎを満喫するのである。
 夏の夜の中学校の空気は、肌にへばりつくようにねっとりとしているんだけど、プールに入れるという予兆が僕の体内温度を少し下げる。
 柵を乗り越えてプールの敷地に入る。短パンの下にはすでに水着を履いているから、Tシャツと短パンをさっと脱いで、水に身を委ねる。誰もいない開放感や、誰かに見つかったらという背徳感が相まって、ひどく気持ちいい。
 いろいろな思いが僕の脳裏をよぎる。どうして僕はここにいるのか。僕は、自分がいるべきではない場所にいる。法的にという意味合いではない。僕は二十歳で、もう中学生にはどうやったって戻れないのだ。
 僕はひとしきり平泳ぎでプールを往復する。中学生のころ、泳ぎはひどく苦手だった。泳がなくてよくなったとたんに泳ぎたくなるんだから、妙なものだ。
 背面でプールに浮かぶ。空は墨のように黒かったけど、ぽつぽつと星が見えた。あのころは、どこから来てどこに行くのかなんて全然わからなかった。しばらく空を眺めたあと、プールから上がり、短パンとTシャツを着てプールを後にした。帰る道すがら、濡れた上半身がTシャツにへばりついて、切なくなった。塩素の匂いがぷうんと鼻をついた。