群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

食えない人

 文章を書くときのネタに困ったら僕の親父ほどうってつけの人はおらず、というのは(悪い意味で)何かと話題にことかかないし、それを多少悪いふうに書いても本人は読んでいないし、読んでも傷ついたり堪えたりするようなタイプではないからです。こんな便利な人間はほかにいません。
 それで、親父の話です。親父と外食に行くと、必ずといっていいほど僕の取り皿に食べ物をとりわけてきて、僕はそれがたまらなく嫌なので、「もうやめてくれって!」と語気を荒げることになるのです。それでこの前、逆に僕が親父の皿に食べ物をとりわけてやったらどうなるのか、存外意に介さないのか、それとも不快に思うのか、思ったら思ったでこちらの気持ちも少しはわかっていいだろう、一つ反応を見てやるかとふと思いついて、実行することにしました。確か中華料理屋だったと思うんですが、親父の取り皿に食べ物をとりわけてやったんです。そうしたら親父は、文句を言うどころか一言も声を発することなく、僕がとりわけたイカか何かをおもむろに箸でつまんで、元の大皿に戻したといいます。この人は本当に食えないなあと思うと同時に、こちらの予想したとおりには絶対反応してこないなあと思って、それが少し面白かったのを覚えています。