群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

満島ひかりの「ファイト!」

 満島ひかりカロリーメイトのCMで、中島みゆきの「ファイト!」を歌っている。


中島みゆき「ファイト」と満島ひかりの相性の良さ カロリーメイト 「とどけ、熱量。」篇 CM

 このCMにおいて、「ファイト!」はある一人の受験生を応援するかたちで歌われており、騒がしい教室のなかで一人参考書に向かったり、受験会場に向かう途中に駅員さんに道をたずねたりする男の子の姿が描かれている。
 中島みゆきの「ファイト!」の歌詞をすべて読んでみると、それはけっして受験のような、長い人生においては一過程にすぎなかったり、十年もたてば意味すらなくなってしまったりする、いっときの"勝ち負け"を歌っているのではないように思える。そこからは、子どものときに見た氷の刃が胸に突き刺さるような怖さや、僕たちの世代は肌で知らない日本の片田舎の擦り切れるような貧しさや差別がかいま見えるのだ。
 だからこのCMに、僕は少なからず違和感を憶えてしまう。
 とはいえ、である。違和感を憶えながらも、このCMにはどこか胸を打たれるのだ。
 その理由はほぼ間違いなく、満島ひかりの歌にあるのだと思う。
 満島ひかりの声は地力がある。低音で響くその声は、人の心を奮わせるものがある。それはきっと、満島ひかりという人間が持つ地力そのものなのだと思う。
 彼女の輝きを初めて目にしたのは、映画「愛のむきだし」だった。この圧倒的なエンターテイメントムービーで、彼女の個性は映画の荒唐無稽さに抑えつけられることなく、それに負けず劣らない逞しい輝きを放ち、映画をより迫力あるものにしていた。
 あの映画を見ると、カロリーメイトのCMでこれだけの地力を放つ彼女を見ても特に驚かないのである。
 誰かの歌をカバーするということは、原曲のマネをするということではなく、自分のものとして再解釈するということである。いいカバー曲は、歌い手がその曲を自分のものにして歌っている。
 カロリーメイトのCMで、原曲を凌ぐかどうかはべつにして、満島ひかりは「ファイト!」をしっかりと自分のものにして歌っている。自分の声で歌っている。本業は俳優なのにもかかわらず。満島ひかりという人間が、それだけの地力を秘めているからこそなのだと思う。
 ひょっとしたら、この人は大女優になるんじゃないかと楽しみにしているのだ。

愛のむきだし [DVD]

愛のむきだし [DVD]