群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

「クロスゲーム」が放つ眩しい輝き

 あだち充のマンガ、クロスゲームが好きである。
 キャラクターの造詣は、あだち充の原型に近い。
 主人公は、樹多村光。幼馴染で恋仲にある、セミロングの髪型をした月島若葉がおり、その妹には、男勝りの野球センスを持つ、ショートカットの髪型をした月島青葉がいる。あることから、月島若葉は命を落としてしまうのだが、ここに、滝川あかねという、亡くなった月島若葉に瓜二つの女の子が現れる。
 僕がクロスゲームを好きなのは、主人公が"亡くなった人間に似ている誰か"ではなく、"亡くなった人間とは似ていない誰か"と結ばれたところである。
 亡くなった想い人と結ばれたら、どんなにいいだろう。でも、それは無理なのだ。過去は、心のうちに秘めて、前を向いて進んでいくしかない。樹多村光が選んだのは、亡くなった想い人に似ている誰か、ではなく、亡くなった想い人に対して同じ思いを共有する誰か、だった。死というのは、普段は日常から隠蔽されているけれど、ときどき顔をだしては、生きている一人ひとりに影響を与え、いろいろな思いを託し、人間関係を変容させていく。樹多村光が月島青葉と結ばれたことからは、亡くなった若葉の思いを心のどこかにひめつつ、今、ここに生きている者どうし前に進んでいこうという意志が垣間見れたような気がして、嬉しく思えた。「タッチ」や「H2」のような大作とは大きさが違うけれど、新しい価値観を見せてくれた、ピリリと眩しい輝きを放つ一級の小品だと思うのである。

クロスゲーム (1) (少年サンデーコミックス)

クロスゲーム (1) (少年サンデーコミックス)