群青ノート

日常の備忘録、あるいは私的雑記帳

「字幕屋のホンネ」

 太田直子の「字幕屋のホンネ」を読む。字幕翻訳というのはセリフ1秒につき4文字で訳さなくてはいけないというルールがある。これが難しく、また同時に字幕翻訳特有の面白さになっている。

 もともと裏側や隅っこが好きな性格なので、表舞台はよく知らない。有名監督やスター俳優との華麗なる交友などまったく縁がないし、映画そのものについて語るほどの知識さえない。なんとなくはずみで字幕屋になってしまった出自の怪しい人物が、本書の著者だ。
 学生時代から翻訳には興味があったが、映画の字幕翻訳という仕事が世の中にあるとはつゆ知らず、ただロシア文学者を夢見て二十三歳のとき当てもなく上京した。二浪までしてやっと入った露文の大学院にもなじめず悶々としているとき、偶然に字幕というものを知り、これはおもしろいと思い、不器用ながらその路線で人との出会いを大切にしているうちに、こうなってしまった。

 何だか私、この文章にほろっときてしまった。自分も何をやって生きてきたのかよく分からない、出自の怪しい人間である。この業界の皆さんはすごく前向きだし、勉強熱心だ。フリーランスなんてどこかねじくれた人間がなるものだ、なんて天の邪鬼なことを言っている場合ではない。翻訳に拾われたんだと思って、道を同じくする皆に取り残されないように、今は流れに身を委ねたい。